17才の春

新未来都市  Prologue


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CAUSE WEVE ENDED AS LOVERS by JEFF BECK

 
「ねぇ、聞こえてる?」
「うん」
「私の声、聞こえてる?」
「うん、聞こえてる」
「なんか、怖い」
「うん、怖いね」


「またくるかな?」
「うん、また揺れるかも」


「体育館いっぱいにみんなが寝てるの。田んぼのあぜ道みたいな、わずかな通路残して。初めのころは段ボールの上にタオルや毛布引いて。とにかく寒かった。夜中にいっせいに、みんなの携帯が鳴り出すの。緊急地震警報。あっちこっちで、子供が泣き出して、毛布を頭からかぶったり、黙って真っ暗な天井みてたり。ここは非難所だから、これ以上非難するとこは、ないんだなとかね」


「広い体育館の向こうの壁とこっちの壁だけど、時々あの人を見てたの、膝を抱えて体育座りで。たぶん高校生。同い年か先輩かも。あの人の友達もまわりの人たちも知らない人ばっかりだったから、たぶん相馬じゃないかも。どこか遠くから非難してきた人だと思う。おにぎりとパンをもらう時に後ろに並んだことはあったけど、ホントはいろいろ話したかった。どこから来たの?何年生?部活は?あなたも誰か家族を亡くしたの?どんな名前かなって考えてみたり、どう話すか練習もしてみたけど話したことはないの。だけど声は聞いたことある。前に桜が咲いてて木の下であの人が友達みんなと話してた。たぶん携帯の充電の話。私はそばを通った時、声を聞きたくてゆっくり歩いたの。思ったとおりのやさしい声だった。他の男の子の声は早口で荒々しく聞こえたけどあの人の声だけ、穏やかでやさしく聞こえた」


「私の場所は体育館の出入り口の近くだったから時々あの人が通ったの。小学生ぐらいの弟を連れて。いつも見たかったけど、私もちろんスッピンだし自分の顔もあんまり見てない。トイレに鏡はあるんだけど、あんまり自分の顔見たくなかった。髪も時々しか洗えないし、いつもジャージ。とても見てほしくはないから、いつも毛布かぶってた」
「そして、思うの。どんなに、人を好きになっても、どんなに仲良くなったとしても、悲しいことの 道連れにしか、ならないような気がして。そして毛布の中で独りで言うの」

「ねぇ、聞こえる」
「うん」
「私の声、聞こえてる」
「聞こえてるよ」
「なんか、怖い」
「うん、怖いね」


「だけどやっぱり夜は怖かった。寒いのはいんだけど、暗いし静かなのも怖かった。ホントは誰かが遠くでヒソヒソ話したり、咳したり、子供がぐづったりもうるさいんだけど、あんまりいやじゃなかった。起きてるの私だけじゃないってことが。だから、地震警報が鳴ると、体起こして、いつもあの人のほうを見るの。黒いシルエットになってて、あの人も体起こして顔の向きがうつ向いてないのがわかる、まっすぐこっちをみてるような気がしたの何回か。私はあの人を見てる、あの人もきっと私を見てるって。しばらくじっと動かないで見てるの」

「ねぇ、聞こえてる?」
「うん」
「私の声、聞こえてる?」
「うん、聞こえてる」
「なんか、怖い」
「うん、怖いね」

「そんな時なんとなくなんだけど体育館の天井見上げて思ったの。今ならこの天井、落ちてきてもいいかなって」


「時々考えるの。もし無人島に一人でいたら、毎日海と空ばかり見てすごしてたらどう思うかって。ひとりぼっちで他に誰もいなくて、自分しか生きてないと思ったら、たぶん自分が生きてるのか、死んでるのかもわからなくなるんじゃないかって。誰かがいるから、私は生きてるって思えるんじゃないかって」

「太陽はいつも高くて、打ち寄せる波の音、貝殻の耳みたいになって砂浜に一人でいるの。もしかしたら、ホントにもしかしたらなんだけど、水平線の遠くの遠くに、もう一つ無人島があって、そこでだれかが、私と同じように、水平線を見てるんじゃないかって」

「ねぇ、聞こえてる?」
「うん」
「私の声、聞こえてる?」
「うん、聞こえてる」
「なんか、怖い」
「うん、怖いね」

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